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2020/08/06

不自然な言葉の組み合わせが気になる (2)

前回の続きです。


その背景には、生真面目すぎても伝わらない、でも軽いだけでは伝わらない…というバランスを見極め、今、若者に刺さる“軽いけれど重たい言葉”としての発言力を持っていることは間違いない。

(「チャラ軽いのに重い? EXIT・兼近、“本当に刺さる”コメント力」2020-06-02 オリコン ORICON NEWS) https://www.oricon.co.jp/special/54739/


この文の「発言力を持っている」となっている部分を「発言力がある」に書き換えて、


その背景には、生真面目すぎても伝わらない、でも軽いだけでは伝わらない…というバランスを見極め、今、若者に刺さる“軽いけれど重たい言葉”としての発言力があることは間違いない。


としてみました。

こうすることで、主語と述語の組み合わせにおいては違和感がなくなりましたが、目的語である「発言力を」の内容を説明する部分にはまだ違和感があります。

この説明部分の前半を見てみましょう。


生真面目すぎても伝わらない、でも軽いだけでは伝わらない…というバランスを見極め、


まず気になるのは、「生真面目すぎても」のあとに「軽いだけでは」という表現があることです。「生真面目すぎて」と「軽いだけ」の順番はどちらが先でもよいのですが、「も」と「は」の順番は、この並び順では不自然です。

「も」という助詞は、たとえばAというものがあり、それとは別にBというものが並列的に、あるいは付け加えるものとしてあるような場合に使います。
使い方としては、「ここにリンゴがある。バナナもある」とか「この世には神はいないし、悪魔もいない」というように、複数あるもののうちの2つめ以降に出てくるものにつけるのが標準的です。
あるいは、対象となるものが複数あることを最初から示唆することを目的に、「~も、~も」というかたちで使うこともあります。「ここにリンゴもある。バナナもある」「この世には神もいないし、悪魔もいない」というかたちです。
しかし、最初に出てくるものに「も」をつけ、あとに出てくるものに「は」や「が」といった助詞をつけることはありません。たとえば先の例文を、使う助詞の順番を逆にして、「ここにリンゴもある。バナナがある」「この世には神もいないし、悪魔はいない」としたら、日本語として非常に不自然になります。

ところが元の文は「生真面目すぎても~、軽いだけでは~」という助詞の使い方をしています。そのため、不自然さを感じるのです。
そこで、助詞を書き換えます。


生真面目すぎては伝わらない、でも軽いだけでも伝わらない…というバランスを見極め

生真面目すぎても伝わらない、でも軽いだけでも伝わらない…というバランスを見極め


こうすると、「も」の使い方の違和感は解消されます。
しかし、まだ、なにかもやもやとしたものが残ります。その原因は、「でも」という逆接の接続詞を使って対比させている言葉が、実は対比になっていないからです。

この部分では、「生真面目すぎ」と「軽いだけ」という言葉を逆接の接続詞「でも」で対比させています。どちらも「伝わらない」の理由となりますが、その方向性が逆であるということを示し、そのあとに続く「バランスを見極め」につなげるという文の構成です。
しかし、「生真面目」と「軽い」は対比になっていると言えますが、「~すぎ」と「~だけ」は対比と言えるでしょうか。

「~すぎ」という表現は、あるものについての性質や数値などの程度が、そのものの標準や平均値、期待値などと比べて、かけ離れているときに使います。「そのリンゴは(標準的なリンゴに比べて)大きすぎる」とか「彼の血圧は(同年代の健康な男性の平均的な血圧に比べて)低すぎる」というような使い方です。
「~だけ」という表現は、複数ある要素のなかから特定の要素を抽出し、他の要素の存在は考慮しないものとして扱うときに使います。「10人いるメンバーのなかから身長が170㎝以上ある者だけを選んだ」「赤く色づいた苺だけを摘んでね(色のついていないものはそのままにしておいてね)」というような使い方です。
つまり、そのものについてのなんらかの「程度」を示す「~すぎ」と、複数あるなかから「抽出」された要素を示す「~だけ」は、言葉がもつ意味の性質が異なります。そもそもの性質が違うため、「~すぎ」と「~だけ」の組み合わせは、対比や比較になりません。

物事についての対比や比較をするには、対比や比較をする「性質」を同じにする必要があります。たとえば元の文を「程度」についての対比にするのであれば、次のようになります。


生真面目すぎては伝わらない、でも軽すぎても伝わらない…というバランスを見極め

生真面目すぎても伝わらない、でも軽すぎても伝わらない…というバランスを見極め


あるいは、「抽出」についての対比にするのであれば、次のようになるでしょう。


生真面目なだけでは伝わらない、でも軽いだけでも伝わらない…というバランスを見極め

生真面目なだけでも伝わらない、でも軽いだけでも伝わらない…というバランスを見極め


ここまでで、助詞の「は」「も」の使い方と、対比させる物事についての、組み合わせの不自然さは解消されました。しかし、この部分には、まだ不自然な部分が残っています。それは、「…というバランスを見極め」の部分です。


つづく


 

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